蝦夷リス

近道への遠回り・数十年前作家になることを考え、特殊な語れる体験がなければと思い日本を後にしました。文壇のなかでのコネなどなかったからです。二十代までは必ずこの癒着がものをいうと信じてきてました。

午前中に歯医者に行く日

おかしなもので、歯医者に行かなければならない、やりたくないことをしなくてはいけないということになったとき、初めて自分の時間が貴重なものに感じられてきて、これまで書いて放置してしまっていた作品のひとつ仮題『生と死』としておこう、を再び読み直すことにした。長い時間放っておいた感じなので内容を再びチェックし泣ければならなくなったのだ。
 でも、読み直しているうちに、あちらこちらの文章がすんなり頭にはいらなかったりするのがみつかり、結局推敲ということができた。推敲も重要な創作の一部だ。

盗み撮りした写真なので、モニターを真剣に見つめていて厳格なウーマンになってしまってますが、手術、診察室ではもっともっと優しく愛さえ感じてしまう雰囲気が彼女にはあります。



 時間が経つのは早く、5時45分に目が覚めて読み始めてからすでに8時半にもなってしまっていた。歯医者には10時15分にはいかなければならない。遅刻を嫌悪するわたしは45分も前に歯医者につきそうなほど早く家をでた。時間が余りすぎたので、リューベックの有名なニーダーエッがーのマルチパンを買って持っていくことにした。この時期にはそんなプレゼントが親切ということになるから。もちろん、妻に去られてからほぼ十年間、おまけに冬ソナも視聴して恋愛感情がちょっと活性化した私の心はちょっと女性の歯医者に魅力を覚えてしまっていた。彼女に上がるつもりだった。



 待合室で、約30分待たされた。まだ全然良いほうだ。市内の歯医者では普通に1時間も毎回待たされたものだった。しかも国民保険ではなく民間の保険会社の高い料金を払っているのにまったく優遇などはされていない。噂とはまったく違う待遇をうけてきていたから。
 わたしよりあとに入ってきた太った老人がいた。彼は十時半とカウンターで主張していた。人造ガラスの背後の窓口の女性は、今日出なく明日の十時半になってますがと応えていた。すると老人は、そのことだが、電話をしていて交渉していたはずだといきまいている。交渉しても通らなかったらしかった。でも、そいつは頑固にそのことを述べて椅子に座り続け、窓口の若い女性も失礼な態度とか反論する姿勢は見せず、受け入れてしまったようだった。
 ということはどうなるかと私は思ったが、私の座る隣を白いジーンズのようなものを履いた見たことのある小柄で目の綺麗で肌をちょっと焼いたマスクをした女医がハローと良いながら通り過ぎていった。
 奥の部屋に消えていった。するとまもなくその部屋からこの老人を招く赤と青のアシスタントのような背の高い女性がいて、わたしを超えてこの頑固な、予約もまともにとってない老人が治療に入ってしまった。
 こんなことが通っちゃうんだと私は驚かされた。プライベート経済だからこんな客も冷たくあしらうわけにはいかないということかと思った。
 わたしはMp3で最近感激した歌声のビリーバンバンを聞きながら呼ばれるのをまった。
 すると呼ばれたのは確か、背後の見慣れた部屋、きょうで三回目の診察と治療だから慣れているといえると思えるが、そのアシスタントと思えた赤と青いスラックスの小柄な南米出身かなと思える顔と肌の女性が私が座り口を開けることを要求し、つまり治療っぽいことが始まってしまったんだった。
 同じ医者がずっと担当するのではなく、替わるのかとわたしはちょっとがっかりした。