蝦夷リス

近道への遠回り・数十年前作家になることを考え、特殊な語れる体験がなければと思い日本を後にしました。文壇のなかでのコネなどなかったからです。二十代までは必ずこの癒着がものをいうと信じてきてました。

浅田次郎とのすれ違い



文学賞滅多切りの豊崎由美氏が
 「なに? ぽっぽやでしょう?」
 と否定的に浅田次郎のことをラジカントロピスで言っていた。全面的に彼女の評論を信じていたころだったので、わたしも彼に関しては食わず嫌いということになっていった。
 ドイツのこの街の古本も売っている日本人の書籍店で、浅田次郎の文庫本がたくさんならんででていてもわたしは買わなかった。ただ、ぽっぽやだけ、あまりにも有名なので手に取った。そのとき初めて短編集なのだということも知った。
 表題作はもちろん、ツノハズという作品にも心を打たれた。
 彼を敬遠していたのは、豊崎氏だけのためでもなかった。一度彼の短編集をわたしにくれていった人がいた。とても好きだといいながらわたしに譲ってくれた人がいた。
 ただ、読んでみて、びっくりし怒りがこの作者にこみ上げたものだった。それは彼自身がもとやくざでもあったとどこかにかいてあり、やくざ口調で犠牲者を罵倒するシーンがあり、書いている作者もとても得意げだった。それがわたしにこの浅田次郎という奴、許せない。そんな気持ちにさせたわけだった。なんとも運の悪い出会いとしかいいようがないと思う。ぽっぽやが先立ったら、古本をごっそり買っていたのに、と惜しまれる。