心臓の次は腎臓という神からの畳みかけか Vol.2 歯医者
腎臓には良いことではないが液体をどらなかったことが功を奏したらしかった。午前11時50分ごろに家をでることになってしまって余裕がなくなったが、下痢は止まった感じだった。尿のほうもその代わりないが。
普通より良い服を纏い、靴を磨いたり体に香水を吹き付けて、それから歯医者に出かける習慣ができてしまっていたが。この日は数日前からいきなり始まった下痢のためにそれをする余裕がなかった。服装だけに終わった。これでは、歯医者に行く前にエデカによって甘く不健康なマルチパンの代わりにフルーツをと考えていたが、そこに足を運ぶ時間などはなくなってしまったという感じだった。
それでも、ぎりぎりでも良いからと考え、まさか十分遅れたことで私の後から来た者を診察するようなこともないだろうと思えた。私と違いそんなに普通の患者は早く来て玄関のソファーで待つとか、そんなことはしない。だから私が遅刻して来てもその後には45分間から1時間は空白が空いてしまうというものだと思った。だいたいいつ来ても待たされるのは時間通りにきた私なのである。
彼女彼女にお願いでもしたら、もしかしたら医者というお堅い職種にある彼女でもマスクをとって笑顔を向けてくれたかもしれない。でも、わたしには肝腎のしつこさ、勇気がかけていた。だから隠し撮りしかできないのであった。
今日のアシスタントについた女性は事務的な態度を私には示していた。女医の彼女が他の用事で診察、手術室をあけていて気まずい感じにもなったので、
「フルーツは好きですか」
とくだものの大好きな女性に愚鈍な質問をしたものだった。彼女からは、そういう私的なことには応えたくないような拒否的な反応しか感じられなかった。彼女の上司の女医さんがとても私の人間性とか好みとか音楽でもマルチパンの産地に関してなどにも耳を貸してくれるのに、この女性はなんなのか。でも、こういう人が普通でわたしが馴れ馴れしいのかとすぐに自己批判を私はし始めた。でも、女医さんがくると、この前に差し上げたものがアーモンドと砂糖のマルチパンなので、それをきっかけに、今回は健康なものを持ってきましたと言って渡せた。
小柄で目の綺麗な女医はビニール袋がぱんぱんに膨らんでいるのに多少驚き、すぐに
「こんなにたくさん、有難う。あとでみんなと・・・・・」
とはじまった。わたしはすぐに
「ただあなたのためだけに持ってきたんです」
と量が多いだけでそれこそ女性職員ばかりの歯医者には当然のプレゼントを目にしながら言ってみた。女医さんはちょっと言葉に詰まったようだった。
フルーツぐらいで私も大げさな言い方をしたものだと思った。だが、こんなことは欧米に住んでいるとすらすら言えてしまう感じだし、このぐらいのことが言えないとソンぶり悪い態度ということにもなってしまうだろうと思う。
上の列の左の隅の歯は手術が終わっていたものと思っていたら、まだ暫定的な差し歯であったようだった。今日は本物のものを、まず暫定的な歯を破壊して除去して植えつけるという手術をし、下の列のために作った入れ歯は残っている歯を守るためにも作ってあるので、できるだけ口のなかに入れておくようにということを彼女は言っていた。
この前、南米のアシスタントの女性から聞いていたので、子供の写真がみたいことを彼女に言うと、ちょっと躊躇ったかのように見えた。みんな、得意げに見せるので逆に見せやすいようにこちらから言ってあげた気持ちでさえいたのだが。
最初は独りの赤子とでっかい顔の、笑い皺で顔中を縫いこまれた夫らしい男性の顔のツーショットの写真が彼女のスマホから現れた。
わたしはすぐに
「あなたの旦那さんの写真などはあまりみたくない」
とすっごく生意気なことをすぐに言ってしまった。
「私は嫉妬深いんです」
と言い訳した。彼女はすぐにそれをモニターから退けた。そして三人の子供の写真を今度は見せてくれて私を驚かせた。
小顔で首も細く体は女の魅力を強調したフェミニンなものだが、近くでみるとやはり若い女性だった。彼女は
「始めたのが早かったから」
とこれもドイツ人がよく使う言い方であったが、言い訳のように言った。せっかく彼女がスマホで見せてくれたのにわたしは不器用にただ眺めていただけだった。普通ならば、礼儀をしるものだったら、感じなくても、子供の美しさ可愛らしさを口にだして賞賛するのだろうけれども、なにも言ってあげられない田舎ものがわたしだった。彼女は自分から、金髪のちいさな小二人が夫に似て、右側のキャラメル色の金髪の第一子の長女が自分に似ているというのであった。でも子供ということもあり、この写真では私には良く分からず、真ん中の子があなたににているようなことをコメントしただけだった。この私の反応もあってはならないものだったとあとで思った。親を、彼女を傷つけることにもなったかもしれないと思った。こんなときには、私の感じた真実の感覚などはどうでも良かったのである。ましてや近くでみたこともないのだから。
わたしは、自分の感覚に忠実で
「あんな近くからあなたを見ることができたのは患者として幸せ」
とまた、変なことを言ってしまっていて、彼女を沈黙に落とし込んでいた。
半年もしたらチェックのためにまた来てくださいと女医は言った。名字は名詞に書いてあるので分かるが、下の名前がとうとう不明で終わった。
あのビジネスライクのアシスタントの女性はすっと私と女医の間をとおり抜けるときに、メリクリスマスとか言ってでていったが、フルーツを私が持ってきてくれたとしったあとと前ではまったく態度が違っていた。
パンデミック時代なので女医とも握手ぐらいはしたかったが、しないで、わたしもフローへヴァイナフテンと弱い声で言ってでていった。彼女には次の仕事が待っていたであろう、ただそのドアの戸口でボンヤリしているようにしかみえなかった。
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